近くて遠い越後の国
新潟と関東を結ぶ最短ルートは、新潟県と群馬県の県境にある谷川岳を横断するルートで、そのルートとしては、三国峠越えと清水峠越えが古くから知られていました。江戸時代には、三国街道が整備されたことで、江戸幕府は湯檜曽に「口留番所(くちどめばんしょ)」を設置して、清水峠ルートは閉鎖されました。
明治時代に入り、三国峠のある三国街道よりも延長が短いということで、清水峠を越えるための清水新道(現在では通行することができない国道291号)が整備され、明治18年9月に開通しました。
清水新道は、幅員3間(約5.4m)で馬車での通行を考慮して整備されましたが、この地域は日本有数の豪雪地帯であり、雪解け時に度々土砂災害などが発生して、馬車も人も通行することが困難となり、遂には放棄されて、現在に至っています。
また、その頃の文明の力である"鉄道"の開通(明治26年信越本線全通、昭和6年上越線全通)により、峠越えのルートによる関東と新潟の人や物の流れは、ほとんどなくなりました。
第二次世界大戦後の食糧難とモータリゼーションの発達を背景として、関東経済圏と北陸の大生産圏を最短距離で結ぶ必要性から、国道17号が一躍脚光を浴び、三国トンネルを新設するとともに現道を改良し昭和34年に全線開通しました。
しかし、国道17号は標高1,100m近い上越国境の豪雪地帯を通過していることから、冬期間はしばしば通行に支障が生じ、また交通混雑期には大渋滞となり、関越自動車道の整備促進の気運が高まってきました。
日本海新時代の幕開け
関越自動車道の整備促進の気運が高まる中、昭和47年6月に関越トンネルを含む月夜野ICから湯沢IC間の施行命令が国からなされました。その後、地質調査や環境調査、用地買収などを行い、昭和52年7月に湯沢側坑口付け、昭和52年10月に水上側坑口付けが行われ、昭和57年2月に本坑トンネルが貫通しました。貫通後、舗装工事やトンネル照明設備、防災設備などの工事を行い、昭和60年10月に対面通行でT期線の供用を開始しました。これにより新潟県民の悲願であった東京から新潟までの高速道路が全線開通し、日本海新時代の幕開けとなりました。しかし、土曜・日曜やスキーシーズンにはトンネルを先頭に大渋滞が発生したことから、昭和61年1月に国から四車線化の施行命令がなされ、ただちにU期線の工事に着手し、平成3年10月に四車線での完全供用を迎えました。
日本一の道路トンネルと世界に例を見ない換気方式
関越トンネルは、新潟県と群馬県の県境にある谷川岳を横断することから、トンネル延長は11,065mとなり、道路トンネルとしては日本一の長さを誇っています。また、トンネルの換気方式としては、2ヶ所の立坑(万太郎立坑、谷川立坑)で送排気を行い且つ電気集塵機を併用する換気方式で、当時では世界でも例を見ない「電気集塵機付立坑送排気縦流換気方式」を採用しました。本坑トンネルは、危険な"山はね"との闘い
T期線は、昭和52年7月に湯沢側、昭和52年10月に水上側から本坑トンネルの掘削に着手しました。トンネルの掘削は、鋼製支保工併用による全断面掘削工法により施工しましたが、県境付近で土被りが750m以上となる区間では"山はね"が発生し、掘削作業が幾度となく中断しました。"山はね"とは、硬い岩盤をトンネル掘削によって生じた切羽面に岩盤内部からの力が集中し、岩盤が山鳴りとともに飛び出す現象のことをいいます。
作業員の安全確保と掘進速度を極端に低下させない方法を検討した結果、岩盤の補強と岩塊の飛び出しを防ぐため、一発破の進行を3mから1.2mにするとともに、トンネルの切羽面にロックボルト(長さ3m)を打設し、山はね防護ネットを設置して、この難関を克服しました
U期線のトンネル掘削は、コンクリート吹付けとロックボルト併用による全断面NATM工法により施工しました。県境付近で土被りが750m以上となる区間ではT期線と同様に"山はね"が発生しましたが、T期線の経験を生かし無事乗りきりました。
特殊工法での換気用立坑の施工
万太郎及び谷川立坑は上信越高原国立公園内に位置しているため、地形が急峻で工事用道路を造ることができないことから、換気用の本立坑とは別に作業用立坑を先行して施工し、その作業用立坑を使用して工事用資材を本坑トンネルから搬入しました。また、掘削した"ずり"(発破した後の岩塊)は国立公園内に出せないため、特殊な工法で導坑を掘削し、それを利用して本坑トンネルから搬出しました。万太郎立坑は岩盤が固かったことから「アリマッククライマ工法」を採用し、地下換気所より地上に向かって直径約2mの導坑を掘削し、その導坑に"ずり"を落としながら直径約11mに切り拡げて施工しました。
谷川立坑は破砕帯と呼ばれる岩質の悪いところがあったことから「レーズボーラ工法」を採用し、大型ボーリングマシンで直径約1.5mの導坑を掘削し、その導坑に"ずり"を落としながら直径11mに切り拡げて施工しました。
これらの工法は非常に特殊な工法であるため簡単に紹介します。
■アリマッククライマ工法
坑壁に取り付けたガイドレールを使用して、昇降する切上りクライマ(作業用プラットホーム)により発破のための削孔、装薬作業を行い、坑底部の地下換気所に退避したのちに発破し、この作業を繰り返して地下換気所から地上に切上がっていく工法です。■レーズボーラ工法
大型ボーリングマシンを使用して、小口径のビットを地上から地下換気所に向かって掘り、貫通後に径の大きいビット(リーミングビット)に交換し、回転しながら引き揚げることにより、直径約1.5mの導坑を施工する工法です。
六年の歳月をかけて湧き出た"谷川の六年水"
谷川立坑内に湧き出ている地下水は、谷川岳に降った雨や雪解け水が約6年を経て、湧き出ているといわれています。水の硬度は7.9と低く超軟水で、飲料水、お茶、コーヒーに適しています。関越トンネルの水上側坑口付近にある谷川岳パーキングエリア(上下線)の売店の脇には、「谷川の六年水」の水くみ場があり、多くの方から利用されています。谷川岳パーキングエリアにお立ち寄りの際には、六年の歳月を感じながら味わってみてはいかがですか。
トンネル豆知識
道路トンネル延長ベスト5(平成23年2月末現在)第1位 関越トンネル 11,055m 関越自動車道
第2位 山手トンネル 10,900m 首都高速道路中央環状線
第3位 飛騨トンネル 10,710m 東海北陸自動車道
第4位 アクアトンネル 9,610m 東京湾アクアライン
第5位 恵那山トンネル 8,649m 中央自動車道
参考文献
基本データ