第20回(平成22年3月29日)

洪水から街を守るとともに 都市の中の貴重な水辺空間を創出する
                            やすらぎ堤(新潟市中央区)

「水都(みなと)にいがた」のシンボル的存在「やすらぎ堤」

新潟市中心部を流れる信濃川とやすらぎ堤  信濃川のうち関屋分水路との分派点にある信濃川水門から河口までの信濃川本川下流は、信濃川流域の最下流部に位置し、本州日本海側最大の都市、新潟市の中心部を貫流しています。
 新潟市では、もともと地盤が低かったことに加え、昭和30年代から50年頃にかけて著しかった地盤沈下の影響もあって、海面の高さや、信濃川や阿賀野川の水面の高さよりも地盤が低くなっているところが多くあります。
 その新潟市を洪水から守り、流水を安全に流すために昭和58年度から本川下流改修事業に着手し、洪水におる被害を防ぐことに加え、良好な水辺環境の創出に配慮した5割勾配(高さ1に対して幅が5の勾配)の緩やかな斜面をもつ堤防整備に全国で初めて取り組み、昭和62年度より「やすらぎ堤」の整備を進め、市民に親しまれ利用されています。
 ここでは、「水都(みなと)にいがた」のシンボル的存在でもある「やすらぎ堤」について紹介します。
新潟市内の標高と信濃川の水位

本州日本海側最大の都市 新潟市を洪水から守る

【新潟地震直後(地震と津波により流出した堤防)】

■地震対策 〜新潟地震を教訓として〜

 昭和39年の新潟地震で、堤防や護岸等が損傷を受けたところに津波が押し寄せ、信濃川を遡ったため、信濃川の水位が上昇し、堤防を越え市街地を襲いました。地盤の高さが低いところではおよそ1ヶ月もの間、水が引かず、交通、産業などあらゆる都市機能と市民生活に支障が生じました。
 新潟地震の時に液状化現象などで信濃川本川下流は堤防のほとんどが損傷を受けました。そのため、堤防断面は地震に対して効果がある緩い勾配(5割勾配)の堤防の採用や、堤防法尻に地震時の液状化対策についての工事を実施しています。

■掘削と堤防で洪水を流れやすく

 本川下流に現在ある古い堤防や護岸は、昭和39年の新潟地震の災害復旧対策として造られたものであり、堤防の高さや幅が不足しているとともに、その後の地盤沈下等により老朽化が進んでいることから洪水になると危険な状況であると言えます。  信濃川本川下流改修事業においては、堤防を高くすることによって計画の洪水流量(1,000m3/s)を安全に流すことができるように改修を進めています。具体的には、川底を掘り下げるとともに、その掘削した土砂を有効に利用して堤防を高くすることにより、水の流れる断面積を大きくし、川の水が安全に流れるように改修しています。また、整備にあたっては、粗朶(そだ:切り取った細い木の枝)を格子状に編んだものを川底に沈める粗朶沈床の施工や親水性との調和を考えた護岸の前面に在来種であるヒメガマの植栽など、川の生きものが住みやすい環境づくりをしています。
やすらぎ堤の築堤工事
粗朶沈床 ヒメガマ植栽

憩いの場として、イベントの場として

 やすらぎ堤は洪水による被害を防ぐ機能はもちろんのこと、都市の中の貴重な水辺空間としての機能も持っています。構造的には、傾斜をほとんど感じない全国で初めての5割勾配の堤防を採用し、高水敷と一体的な利用が可能となるようにするとともに、水際部は階段状にしたり、入り江を設けるなど、人が水辺に近づけるような整備をしています。
やすらぎ堤の標準断面図
 また、やすらぎ堤では、景観上はどのような配慮をすべきかなどについても市民の意見を取り入れ、整備にあたっては、新潟市による「サイクリングロード」や「やすらぎ堤緑地」などの周辺の整備とも連携し、「水都にいがた」のシンボル的な空間として整備されています。
 その結果、やすらぎ堤は、年間を通してさまざまなイベント会場になっているほか、その名のとおり、多くの市民にとってのやすらぎの場となっています。そして、この広々としたオープンスペースは優れた都市景観と認められ、1998(平成10)年には「新潟市都市景観賞」を受賞しました。 やすらぎ堤は、今後とも地域の安全を守り続けるとともに、水辺と人々の暮らしを近づける貴重な役割を果たし続けるでしょう。
やすらぎ堤建設前後の風景
やすらぎ堤でのイベントの模様

参考文献

  • 信濃川下流河川事務所ホームページ: http://www.hrr.mlit.go.jp/shinage/

    基本データ

  • 河川名:1級河川信濃川水系信濃川

    アクセス

  • JR新潟駅より 950 m,徒歩 18 分,車で 5 分
      (萬代橋付近やすらぎ堤までの所要時間を表記)

    「やすらぎ堤」周辺地図(Google Map)の表示