第4回(平成21年11月11日)
ひと・まち・夢をつなぎ、明日をひらく 新潟みなとトンネル
〜水都回廊(ポートコリドール)〜(新潟市中央区・東区)
「みなとまち新潟」を支える臨港交通施設
新潟港(西港地区)は、新潟市の中央を流れ日本海に注ぐ信濃川河口部を中心として古くから栄え、現在も本州日本海側における最大の港として産業・物流・交流を担い、地域の発展に貢献しています。
しかし、新潟港(西港地区)は、萬代橋から下流側4kmにわたり、左右両岸を結ぶ連絡路がないため、市民生活をはじめ、港の発展や地域の経済活動の面で大きな障害となっていたことから、大正の初め以来、連絡路建設実現のための運動が繰り返し展開されてきました。
これらを受けて、昭和58年〜59年の「新潟港周辺整備計画調査」おいて信濃川左岸の入船地区から右岸の山の下地区を結ぶ臨港交通施設として「港口部ルート」が提案されました。その後昭和61年に「臨港道路入舟臨港線」として港湾計画に位置付けられ、翌昭和62年に直轄事業として着手されました。この「臨港道路入舟臨港線」は市民からの名称募集で「新潟みなとトンネル〜水都回廊〜」と命名され、平成14年5月に2車線で部分開通、平成17年7月に4車線で全線開通し、市内中心部の交通緩和に貢献しています。
「みなと」の中のトンネル
港には、航路(船の道)があるため、港の両岸を結ぶ臨港交通施設の構造は、佐渡汽船等の船舶が航行可能な大規模な橋梁形式又はトンネル形式が一般的です。新潟港における臨港交通施設の構造形式決定に際しては、道路の線型や占用面積、工事環境や制約条件から検討を行いました。
@近接する新潟空港の利用を妨げる高い構造物としないこと。
A施工時において、港内を航行する船舶の航路が確保できること。
B総事業費を抑制できること。
これらの観点から比較検討を行った結果、トンネル形式が採用となりました。中でもトンネル本体が陸上で製作可能であり、かつルート的にも陸上から海底のトンネル部へのアプローチ部が短く費用面で有利な沈埋トンネル工法を基本構造として決定しました。新潟港みなとトンネルは日本3大湾以外では初の沈埋(ちんまい)トンネル工法の採用でした。
沈埋トンネルの構造
沈埋トンネルは沈埋函と呼ばれる構造体で構成されています。沈埋函はプレストレス鉄筋コンクリート製で、新潟みなとトンネルはこの沈埋函を8函連結して海底のトンネル部を構成しています。
沈埋函の寸法は、幅28.6m、高さ8.75m、長さ105m及び108mで、1函当たりの重量は約26,000トンという巨大構造物です。内部空間は車道2室の両側に自転車・歩行者道とサービスダクトを設けた4室で構成されています。
沈埋函と沈埋函を接続する継手は地震への耐震性を考慮した可撓式継手とし、その構造形式は引張力を連結ケーブルで、圧縮力をゴムガスケットで受け持つ構造形式を採用しています。
沈埋函の製作〜据付(沈設)
沈埋函の製作は、新潟港(東港地区)の東水路を開削したドライドックで行いました。ドライドックは沈埋函4函を同時製作するヤードとして底部面積35,000m2、深さ10mの広大な作業ヤードです。
このドライドックで4函同時製作を2サイクルで合計8函製作しました。コンクリート構造物を海底に設置することから高い水密性が要求され、沈埋函に使用するコンクリートの設計規準強度は高強度コンクリート(35 N/mm2)を採用しています。
完成した沈埋函は、両端部を密閉し、水面に浮上させた後に新潟港(東港地区)から新潟港(西港地区)へ約25.3kmの海路を曳航し、据付(沈設)を行っています。沈埋函の据付場所は、信濃川河口部のため高濁度の河川水による視界不良や河川の流れの影響を受ける水域、大型フェリー等が頻繁に航行する狭隘な航路といった悪条件が重なっており、そのような施工環境のなか、高い据付精度が求められました。沈埋函据付のための施工(沈設)方法として、採用されたのが「タワー・ポンツーン方式」です。本方式は、海底に固定したアンカーに沈埋函を係留し、沈埋函上に設置されたタワー上のウインチにより水平方向の操函を行い、同様に設置されたポンツーン上のウインチにより垂直方向の操函行う方式で、目的の設置位置まで沈埋函を誘導するものです。また、本方式の採用にあたっては、水平・垂直方向の操函、バラストタンクへの注水作業に自動化システムを取り入れ、作業時間の短縮、人的ミスの排除、施工の均一性を図りました。
トンネル立坑の機能
立坑は、トンネル内の換気を行う施設で、新潟みなとトンネルには左右両岸に一対の立坑が設けられています。新潟港の港口部であることが一目でわかるランドマークとして機能し、両方が全く同じデザインではない「カップル型ツイン」というデザイン手法、併せて、周辺のへの威圧感や圧迫感を軽減するため、形状の異なるスリムな4本のタワーを備えたデザインとなっています。
立坑は換気機能の他に電力供給用の受変電設備、雨水排水用の排水ポンプ、消火槽が配置され、左岸側立坑内のコントロールセンターで各設備の制御を行っています。また、右岸側左岸側それぞれが一般公募により、左岸立坑を「入船みなとタワー」、右岸側立坑を「山の下みなとタワー」と命名されました。
地下水位の高い砂地盤との戦い
立坑の建設は、日本海側の海浜特有の厚い砂地盤での施工となり、高い地下水位の砂地盤での国内最大級の工事となりました。
このため、工事を安全に実施するため仮設工の設計において試験施工及び計測施工に裏付けられた合理的な山留め設計を行い建設を進めました。
@細かな土質調査により精度の高い土質条件の設定。
A山留壁へのプレロードの導入による応力低減。
B試験工事による間隙水圧計測を基にしたボイリング対策を行った上での山留壁根入れ長の設定。
これら様々な検討を基に施工を進め大規模な掘削施工を完了させました。
整備効果と賑わい空間としての活用
これまで、信濃川下流部4kmにかけては、両岸を結ぶ連絡路が無く、港湾臨海地域から発生する関連交通は市街地に流入し、萬代橋の慢性的な渋滞を引き起こす一因となっていました。現在新潟みなとトンネルの交通量は約17,000台/日となっており、これまで萬代橋を利用していた西新潟方面⇔東新潟方面の一部の交通量の転換が図られ、新潟市街地の渋滞緩和へ寄与しているものと推察されます。また、新潟みなとトンネルの全線開通後は国道113号方面からのアクセス性が向上し、新潟バイパス竹尾IC〜新潟西海岸間の通行時間が約10分短縮されました。
また、トンネル立坑は港を一望できる回遊式の展望室、階段状広場を導入し、多くの市民が集い憩う場として日本で初めての一般市民開放型の立坑となっています。
みなとタワー周辺は、みなとオアシス新潟(平成19年3月登録)の登録施設になりました。みなとタワー展望室では、日本海に沈む夕日を間近に見られる他、イベント会場としてミニコンサートやお月見イベント等、数多くの催し物が開催されている他、みなとタワーに隣接する広場には、滑り台などの複合遊具や芝広場、ベンチが設置された公園も整備されました。
新潟みなとトンネルは信濃川河口部の臨港交通施設にとどまらず、新潟港におけるランドマーク、市民への賑わい空間を提供する土木構造物として広く親しまれ、利用されています。
参考文献
「新潟みなとトンネル 写真で見る全線開通までの記録」、北陸地方整備局 新潟港湾・空港整備事務所
「新潟みなとトンネル工事誌」、北陸地方整備局 新潟港湾・空港整備事務所
基本データ
所在地: 新潟市中央区窪田町〜新潟市東区臨海町
構造形式: 鉄筋コンクリート製沈埋函工法
延 長:沈埋トンネル部 850m(港口部ルート総延長 3,260m)
幅 員:往復分離4車線3.25m<
特 徴:
(1)日本海側初、日本3大湾以外で初の沈埋トンネル工法
(2)地震時挙動に耐える新たな継ぎ手構造と函体構造を実現
(3)コンクリート素材を活かした低コストデザインの導入
(4)日本で初めての市民開放型の換気塔の採用
アクセス
入船みなとタワー:
JR新潟駅よりバス(附船町線入船営業所下車)約6km、所要時間約20分
JR新潟駅より車 約4.5km、所要時間約15分
山の下みなとタワー:
JR新潟駅よりバス(臨港町線山の下バス停下車)約5km、所要時間約15分
JR新潟駅より車 約4.5km、所要時間約15分
「新潟みなとトンネル」周辺地図(Google Map)の表示