第23回(平成23年3月21日)

一級河川本川に設けられた大規模砂防スリットダム
                         姫川スリットダム(糸魚川市)

姫川流域等雨量線図

姫川の河川概要

 姫川は、長野県大町市の青木湖の北に源を発し、白馬村・小谷村を経て新潟県に入り、糸魚川市を北上し、日本海に注ぐ流域面積 722 平方キロメートル、延長 60q、平均河川勾配 1/70 の急流河川です。流域内は、ほとんどが山岳地であり、流域の 99% を占めます。その中には、中部山岳国立公園や白馬山麓県立自然公園などがあり、自然豊かな地域として位置づけられています。

7.11水害

 平成7年7月11日から12日にかけて、梅雨前線が北陸地方に停滞し、活発な活動を見せました。梅雨前線は11日昼過ぎから11日夕方にかけて上越地方を中心に激しい雨をもたらし、その後、雨はいったん弱まりましたが、上中越地方では12日明け方から昼過ぎにかけて再び雨が強まり( 図−1 )、2日間合計雨量もおよそ300o〜400oに達しました。
 この降雨により上中流域で地すべりが発生したため、大量の土砂が河川に流入し、激流となって流れ下りました。
 それにより、姫川の河岸が浸食され、河川沿いの人家や姫川温泉、国道148号、JR大糸線に大きな被害を与えるとともに(写真−1)、流出した土砂が河川内に堆積しました。(写真−2)
 被害の規模が大きいことから、新潟・長野両県では災害復旧助成事業で復旧することとしました。
洪水時の姫川温泉近くの様子
JR第4下姫川橋梁

スリットダムの設置

水系一貫した土砂管理のイメージ(姫川)

■必要性

 姫川の流域は脆弱で複雑な地質構造となっており、日本で有数の大規模な崩壊地(稗田山など)や地すべり地帯があります。大雨などで山が崩れ、その土砂が土石流となり河川を流れる災害が、過去に数多く発生して大きな被害を起こしています。このため古くから砂防事業が進められていますが、未だに河川の中に土石等が多く堆積しており、次の出水では土砂災害の原因となってしまいます。また、河川が曲がっている所や狭い所に多く土砂が堆積しやすくなっています。
 7.11水害でも流出した土砂により大きな被害が起こったため、災害復旧助成事業では、「土砂災害対策検討委員会」(委員長:京都大学芦田名誉教授)を設置し、流出土砂被害対策の検討が行われ、流出土砂を調節する施設としてスリットダムが有効であるとの提言がなされました(図−2)。

■スリットダム計画の検討ポイント

 ダムの計画については、以下の条件を踏まえ、ダム位置や高さ等を検討するとともに、ダム構造は「コンクリート式・櫛形スリットダム」形式を採用しました。
  1. 7.11洪水で第6取水堰より流出したとされる266万立方メートルの土砂を、スリットダムの設置で92万立方メートル以下に抑えること(図−3)。
  2. 家屋、鉄道、国道、支川の合流等に堆砂・せき上げが影響しないこと。
  3. ダムによる河川の上下流の分断を極力さけ、生物の保護に配慮すること。
  4. 上流のJR橋、JR盛土の安全確保のため、横川が合流する付近の堆積する砂の高さを極力押さえること。
  5. 捕捉した土砂の排除など、できる限り維持管理の必要が無い構造とすること
スリットダム建設時の土砂管理計画

■スリットダムの諸元

  • 流域面積:   A = 551平方キロメートル(スリットダム地点17.66 q)
  • 設計対象流量:   Q = 毎秒2,630立方メートル
                (河道計画流量 毎秒2,500立方メートルに土砂混入率 5%見込む)
  • ダム延長(堤長):   L = 103.0 m
  • ダム高さ(全高):   H = 11.5m(スリット高さ H = 6.0 m)
  • 水通し幅:   B = 70.0 m(スリット幅 B = 3.0 m)
  • 越流水深(スリット閉塞時): h3 = 7.5 m
  • 水通し袖高さ:   H3 = 9.0 m
    スリットダムの鳥瞰図,側面図,正面図
    スリットダムの効果

    ■スリットダムの効果

     スリットダムには、次のような効果が期待できます(図−5)。
    1. スリットダムにより、大洪水時には人家が集中する下流域への土砂流出を減らし、異常な河底の土砂の堆積を抑制します。これにより下流の堤防から河川の水が溢れることや、JR橋等の浸水による被害を防止することができます。
    2. 小規模な出水ではスリットダムで捕捉した土砂が下流へ流れるため、河底が掘れるのを抑制し河底の安定を図ります。

    水理模型実験の様子

    ■水理模型実験の状況

     スリットダムを設計するにあたり、スリットダムの土砂の捕捉効果や河川の流れを正確に把握するために、電化吊り橋付近からJR第6下姫川橋付近までの延長約6q区間について姫川の模型を作成し、水理実験を実施しました(写真−3)。

    ■スリットダム摩耗防止対策

    【経緯】

     姫川の河川の中には粘板岩や砂岩を主体とした硬い礫が多く、急流河川のため 50〜100pの巨石も多く見られます。これらの硬くて大きい石が流れてきて衝突することにより、姫川の構造物(取水施設等)は摩耗が非常に激しくなっています。そのため、土砂災害対策検討委員会から摩耗防止対策が必要との提言があり、実施にあたり、建設省土木研究所(砂防研究室)のアドバイスを受けて、
  • 摩耗対策部分には、高強度コンクリート(設計基準強度 90N/cm2)を用いる
  • 上流の露出面には、現地発生の玉石、切石を用いて摩耗対策、景観対策を行う
  • コーナーの補強には、弾性と剛性を持つラバースチールを保護材として用いる
  • 施工性を考慮して型枠兼用ブロックを採用する などの対策を実施する事としました。

    【摩耗防止工法】

     摩耗防止対策工法としては、耐摩耗・衝撃性、施工性、経済性、品質・維持管理、修景等の観点から検討し、総合的に評価して、超高強度コンクリート(90N/cm2)を使用した「自立式・型枠兼用ブロック工法」(図−6)を採用することとしました。この工法はダムの前面と背面にブロックを積み上げながら現場打ちコンクリートを打設するもので、型枠が不要となり作業の大幅に省力化が図られるとともに、施工が容易で、作業効率が向上し、工期の短縮も図ることができました。また、工場生産の均一で高品質なブロックを使用することにより作業の安全性を図るとともにすぐれた景観をもつ砂防ダムを施工することができました(写真−4)。
    摩耗対策の実施図 張石による摩耗対策の施工状況

    ■施工

     このスリットダムは平成9年9月に着工し、河川を締め切りながら、4ブロックに分割した本体工を施工し、平成12年3月に完了しました(写真−5、6)。
    スリットダムの全景 張石による摩耗対策の施工状況

    ■現状と課題

     現在、スリットダムを設置後は下流に著しい堆積はなく、スリットダムには特段大きな摩耗は見られない状況です。(写真−7、8)ただし、設置後に大規模洪水が発生していないため、今後もスリットダムの効果、摩耗防止対策の効果について検証していきたいと考えています。
    現在のスリットダム(その1) 現在のスリットダム(その2)

    参考文献

     「姫川災害復旧助成事業 工事記録誌」  新潟県

    基本データ

  • 流域面積:   A = 551平方キロメートル(スリットダム地点 17.66 km)
  • 設計対象流量:   Q = 毎秒 2,630 立方メートル
                  (河道計画流量 毎秒 2,500 立方メートルに土砂混入率 5% 見込む)
  • ダム延長(堤長):   L = 103.0 m
  • ダム高さ(全高):   H = 11.5 m(スリット高さ H = 6.0 m)
  • 水通し幅:   B = 70.0 m(スリット幅 B = 3.0 m)
  • 越流水深(スリット閉塞時):   h3 = 7.5 m
  • 水通し袖高さ:   H3 = 9.0 m
  • 事業費:   18億円

    アクセス

  • 北陸自動車道「糸魚川I.C.」より車で5分
  • JR大糸線「平岩駅」より車で20分

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