第9回(平成21年12月21日)

ゼロメートル地帯を水害から守る  山の下閘門排水機場(新潟市東区)

新潟平野の成り立ち 〜昔は信濃川と阿賀野川の河口は一つ〜

 新潟平野は、信濃川や阿賀野川をはじめ、多くの川が山から土砂を運んできて自然に作られました。豊富な水と広大な土地は、昔から稲作を中心とした耕地として利用されてきました。
 今から約270年前(江戸時代の中頃)まで、阿賀野川は信濃川に合わさって日本海に流れこんでいました。信濃川の河口にある新潟湊(今の新潟西港)には、たくさんの水が流れてくるため水深の深い良い港で、また堀を利用した舟運が発達し、全国から多くの船が集まる港町としてにぎわいました。
県都を守る山の下閘門排水機場 正保2(1645)年の越後平野

通船川の誕生 〜通船川は阿賀野川のなごり〜

安永2(1773)年 通船川開削裏書き証文をもとにした図  享保15(1730)年、新発田藩は紫雲寺潟や福島潟などの水はけをよくして、農作物がとれやすく、人も住みやすくするための新田開発に取り組んでいました。そこで、阿賀野川が大きく曲がる松ヶ崎に、普段よりも水が多く流れる洪水の時だけ、余分な水を日本海へ直接流そうと考え、水路を掘り、堰(せき)を造りました。
 せっかく造った松ヶ崎の堰ですが、次の年(1731年)の春の雪解け水の洪水で壊れてしまい、阿賀野川は今の新潟空港の脇から直接日本海に流れ出るようになりました。その後、新潟湊には阿賀野川の水がほとんど流れなくなったため、阿賀野川からの船が通れなくなったり、湊は浅くなったりして、人々は困ってしまいました。阿賀野川方面と新潟湊に船を行き来できるようにするため、今の新潟市本所から海老ヶ瀬まで運河を掘りました。
 しかし、阿賀野川からの入り口がすぐに土砂で埋まってしまうため、この運河は使われなくなってしまいました。 その後、以前の阿賀野川本流の跡を船が通れるように整備したのが、通船川の始まりです。

ゼロメートル地帯と新潟地震

 海面より低い土地をゼロメートル地帯といいます。新潟平野の中にはゼロメートル地帯が約183平方キロメートルもあります。昔から低い土地でしたが、昭和の頃から行われた地下水の汲み上げなどによって地盤沈下がおき、海より低くなった土地が多くあります。
 そのため、何も対策をしなければ海水が流れ込んできて水につかってしまう区域であり、そこに降った雨は自然には流れ出て行かないため、浸水被害に遭いやすいということになります。
 実際に、昭和39年(1964年)の新潟地震では堤防が壊れて川の水が流れ込み、1か月以上も水びたしの場所があったといわれています。
地震後の明石通りの様子(山の下排水機場の概要より) 国道113号・中地区事務所周辺の水害の様子(山の下排水機場の概要より)

自然排水方式から機械排水方式への転換

信濃川・阿賀野川・栗ノ木川・通船川の水面の高さ  新潟地震で通船川や栗ノ木川の流域で大きな被害が発生したため、抜本的な対策として、このゼロメートル地帯に降った雨をポンプを使って排水する機械排水方式に変更しました。
 この時に通船川の信濃川の合流点に造られたのが山の下閘門排水機場です。山の下閘門排水機場は、ゼロメートル地帯を流れる通船川、栗ノ木川の水を信濃川にポンプで汲み上げて排水し続けています。排水することによって、信濃川の水面の高さは標高約0.6mですが、普段の通船川、栗ノ木川の水面の高さは標高マイナス1.65mになっています。普段は信濃川と通船川・栗ノ木川の水面の高さの差は2m以上あります。
 また、山の下閘門排水機場のもう一つの役割は「閘門(こうもん)」です。閘門とは、信濃川と通船川・栗ノ木川を行き来する船を上げ下げするエレベータのような働きがあります。閘門の中に船を入れ、水を出し入れすることによって船を上下に動かします。水を出し入れする閘門の扉は観音開きになっていて「セクターゲート方式」と呼ばれています。この方式は日本国内では珍しいものです。
建設途中の山の下閘門排水機場
扉を開いて閘門に水を入れる様子 閘門の中に入る船の様子
船の閘門の通り方

平成10年「8.4水害」と新ポンプ場の増設

 平成10年8月4日の記録的な豪雨は流域に大きな被害を及ぼしました。
 この時と同じ規模の豪雨が起きた場合でも、床上浸水や溢水被害を防ぐため、山の下閘門排水機場では、河川激甚災害対策待別緊急事業によって30m3/sの排水能力を持つ新しいポンプ場を従来からのポンプ場の下流側に増設することとし、平成15年3月に新ポンプ場が完成したことにより、従来21.6m3/sだった排水能力は、2倍以上の51.6m3/sとなりました。
 最近はゲリラ豪雨による水害が全国的に多く発生するようになってきましたが、地域の安全を確保するため、24時間体制で監視を行っています。
平成10年「8.4水害」の浸水区域(緑色のエリア) 平成15年に完成した新ポンプ場(管理棟)

参考文献

  • 新潟県新潟地域振興局:
       http://www.pref.niigata.lg.jp/niigata_seibi/1200934855708.html
  • 「新潟市史」、新潟市
  • 「松と砂丘と港」、新潟市立山ノ下中学校

    基本データ

  • 河 川 名: 1級河川信濃川水系通船川
  • 計画排水量: 51.6m3/s(旧21.6m3/s +新30.0m3/s)
  • 竣   工: 昭和43(1968)年.平成15(2003)年に新ポンプ場を増設

    アクセス

  • 住所:新潟市東区沼垂6012-2
  • JR新潟駅より 徒歩約40分(L=3km)

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