第2回(平成21年10月28日)

美しい石積みで土砂災害からくらしを守る
           万内川・日影沢石積砂防えん堤群・床固工群(妙高市)

万内川一号砂防えん堤

周囲の自然と調和した登録有形文化財

 明治35年(1902年)5月に発生した粟立山の大崩壊による土砂災害から妙高市西野谷地区とその下流域を守るため、大正10年(1921年)から現在までに造られた万内川の砂防えん堤は18基を数えます。平成15年に登録有形文化財に登録された11基については、現地産の石を使った石積えん堤で、その組み方は極めて精巧で、周囲の自然環境と調和した美しさ、先人の知恵と苦労、技術の高さがうかがえます。

日影沢石積床固工群 造られてから長年経過した今でも、現役として機能しています。万内川の支流の日影沢には、わずか1.2kmの急峻な渓流に47基もの石積床固工が設置されており、平成15年に登録有形文化財に登録されました。

新潟県砂防発祥の地

万内川一号砂防えん堤完成時の様子  大正5年(1916年)頃から万内川砂防えん堤工事の調査が始まり、大正10年(1921年)に現在の万内川一号砂防えん堤の工事に着手しました。
県下初の砂防事業が着手されたことから、万内川は『新潟県砂防発祥の地』とされています。
 工事は新潟県直営事業として行われ、住民の方のお宅を事務所にして、10人ほどの職員が約5年間、工事の監督、施工にあたりました。
 構造は粗石コンクリート造りで、日本の砂防工事の初期の技術による砂防えん堤です。万内川一号えん堤は、3年の期間を費やし大正13年(1924年)に新潟県で最初の砂防えん堤として完成しました。

一号砂防えん堤登録有形文化財登録証と記念碑  当時は建設機械もないため、すべて人力で作られました。
材料は、表面を覆う割石と、中心部の玉石、その隙間を埋める砂利によって造られています。 割り石は、現地の大石にノミで穴をあけ、この穴にクサビを入れて叩き石を割っていきます。主にえん堤を造る川原で職人が、1人1日60〜80個の割り石を作ったということです。中に詰める玉石は現地の川原で集めました。隙間を埋める砂利は、玉石や大きな石を金槌で砕いて砕石をつくり、それで隙間を埋めました。材料の運搬は村人により行われ、若い女性もセメント袋2つ、合わせて100sを担ぎました。

セメント2袋を背負う女性 作業時の記念写真

砂防遺産とせせらぎのまなび空間

 自然の中で親しみながら、砂防事業に対する理解を深めてもらうとともに、さわやかな清流、歴史的遺産となっている砂防設備に親しみをもってもらうため、平成元年から万内川砂防公園の整備に着手しました。現在では親水護岸や砂防模型水路、散策路の整備、登録有形文化財に登録された砂防えん堤の記念碑の設置がされています。
 平成16年からは、毎年8月に万内川砂防公園サマーフェスティバルが開催され、 川での水遊びや登録有形文化財めぐりなどのイベントを通して、多くの人が砂防に親しんでもらえるような環境づくりを行っています。
万内川砂防公園の学習ゾーンにある模型水路 平成20年8月の万内川サマーフェスティバルの様子

参考文献

  • 万内、日影沢石積堰堤・床固工群,新潟県妙高砂防事務所.
  • 地域を守り続けてきた砂防えん堤群―文化財登録へ―,新潟県土木部砂防課・新潟県新井砂防事務所.
  • 西野谷が語る万内川砂防の歴史と価値.

    基本データ

  • 所在地: 新潟県妙高市大字西野谷(万内川砂防公園)
  • 万内川砂防えん堤群の構造形式:重力式石造えん堤、重力式コンクリート造えん堤
     (1)万内川 一号えん堤 堤長43m、堤高5.0m/  (2)万内川 三号えん堤 堤長35m、堤高2.0m
     (3)万内川 四号えん堤 堤長26m、堤高4.0m/  (4)万内川 六号えん堤 堤長37m、堤高2.0m
     (5)万内川 七号えん堤 堤長47m、堤高3.0m/  (6)万内川 八号えん堤 堤長50m、堤高3.2m
     (7)万内川 十号えん堤 堤長42m、堤高3.5m/  (8)万内川十一号えん堤 堤長33m、堤高4.0m
     (9)万内川十二号えん堤 堤長38m、堤高4.2m/  (10)万内川十三号えん堤 堤長35m、堤高5.9m
    (11)万内川十四号えん堤 堤長34m、堤高4.9m

  • 日影沢床固工群の構造形式: 石造床固工、石張斜路工
     (1)日影沢 一号床固工 堤長30m、堤高5.0m
     (2)日影沢中流域床固工 石造床固工32基よりなる延長302mの床固工群
     (3)日影沢上流域床固工 石造床固工6基よりなる延長31mの床固工群
     (4)クズレ沢 斜路工  石張斜路工延長12m及び石造床固工1基よりなる斜路工

  • 特徴 (1)人力による工事
     当時、建設機械がほとんど無い時代であったため、材料加工、運搬、石積作業を含め全て人力で施工している。
    先人の知恵と苦労、技術の高さが伺える。
    (2)周囲の自然と調和した石積工法
     砂防設備の材料に現地産の石を適用しており、組み方も極めて精巧で、周囲の自然と調和した美しさである。
    (3)砂防設備としての防災効果
     築造から80年以上経った現在でも、砂防設備としての防災効果を発揮しており、西野谷地区とその下流域を土砂災害から守っている。

    アクセス

  • JR新井駅より約8q、車で20分
  • 上信越自動車道新井スマートインターより約5q、車で11分
  • 国道18号長森交差点より約5q、車で11分

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